ビザアドバイス
2003/03/03
vol.9 21日間で発給される労働許可書
米国労働局は、ようやく、労働許可証発行のプロセスを抜本的に改革する新案を発表しました。この新案が実現されれば、RIR申請や、一般的な労働許可申請手続きも必要なくなります。労働局の提案している新案では、許可申請をしてから21日以内に審査が完了することになります。21日間の審査終了後、労働許可が発給されれば、移民局へ永住権申請(I-140)を行うことができ、その後は、最終面接へと進みます。もしこれが実現すれば、現時点では、3年以上かかっている雇用ベースの永住権申請が、約6~8ヶ月程度で終了することになるでしょう。一般の雇用ベース永住権申請であっても、1年以内に永住権を取得できるのがあたりまえになる、そんな日が到来するかもしれません。この新案は、来年正式に規則として公布されると予測されています。一日も早く新しい審査制度が導入されて、現在の停滞した永住権申請プロセスを大きく改善してくれることを願っています。
この新しい審査制度は、申請書上の雇用主側の供述に大きな信用を置くことと、審査プロセスをオートメーション化することにより、審査の効率化を図ろうとするものです。この制度は「PERM regs」と呼ばれ、数年前からその導入が期待されてきました。新制度では、現行のRIR制度同様に、雇用主が申請前に求人活動を行うことが条件となっています。また、雇用主は、自動審査システム用に新たに制定される申請用紙を、FAXもしくはWEB上の送信フォームで、直接、連邦労働局労働許可審査センターへ提出することになります。
申請に際して、州職業安定所(SESA)は、そのポジションに関する現行平均賃金の査定を行います。雇用主は、SWA(SESA)にJob Order(求人情報)を提出しなければなりません。このJob Orderは、州の職業安定所において、一般の雇用主から出される求人情報と同じように求職者に提供されます。SWA(SESA)は、これまで、労働許可申請先窓口であり、許可審査にもかかわってきましたが、今後は、労働許可審査プロセスには関わらないことになります。つまり、全ての労働許可申請は、連邦労働局に提出されることになります。
労働局側は、「申請前の求人活動規定を設けること」「自動審査システムの導入」「州職業安定所の労働許可審査への関与を廃止」の、3要素を組み合わせることで、労働許可審査に必要となる平均期間を21日程度まで短縮できるだろうと予測しています。
「申請前の求人活動規定」によって、雇用主は、指定求人活動と選択的求人活動の双方を行わなければなりません。選択的求人活動とは、規則に定められた補助的求人活動リストの中から自由に選択して行うことのできる求人活動のことです。この新しい審査制度では、「雇用主は労働許可申請の際に求人活動に関する証拠書類一式を提出しなくても良い」とされており、規定の証拠書類一式は自分で保管しておいて、当局側に再審査要求が出された場合にのみきちんと書類を提出できれば良いとされています。雇用主に対する大き信頼の元に成り立っている、非常に興味深い制度であるといえます。再審査要求は、不正防止目的で行われる無作為抽出で選ばれたケースや、申請内容に不適切な点があって自動審査システムが再検査を要すると認識したケースに対して出されます。
労働許可申請は、次の2つの申請書で行います。
・労働許可申請書(ETA9089)・現行平均賃金査定申請書(ETA9088)
申請書は、雇用主が記入しなければならない56項目から構成されており、これらのうち半分以上の項目で、単なる“YES”“NO”“N/A”回答ではなく雇用主の供述が求められることになります。 新しいフォームにおいて、雇用主は、次のような供述を行わなければなりません。
・ 求人媒体や自社従業員に「求人広告」を提供したか、
・ 当該外国人の申請の根拠となる職務経歴は労働許可申請企業で得られたものか、
・ 当該外国人は現在労働許可申請企業に雇われているのか、
・ そのポジションの任務遂行に外国語は必須要件なのか、
・ 求人広告に応募してきたUS市民が採用されなかったのは真正な職務上の理由に基づくものなのか、など。
申請書上の予定給与額は、現行平均賃金額と同等もしくはそれ以上でなければなりません。この平均賃金額は、SWAによって査定され、現行平均賃金査定申請書(ETA9088)に明記されます。
新しい労働許可申請書では、雇用主は、職務内容や応募要件詳細を記載する必要はありません。但し、雇用主は、事前に職務内容や応募要件を記入した現行平均賃金査定申請書(ETA9088)をSWAへ提出し、平均賃金の査定を受けておかなければなりません。SWAは、職務内容・応募要件を基に平均賃金査定を行って、ETA9088にその額を記載し、雇用主へフォームを返送します。雇用主は、SWAから返送されたETA9088と、記入済みETA9089を、ETA受け付け窓口へ提出して審査を仰ぐことになります。
現行平均賃金査定申請書を添付した労働許可申請書は、簡単な申請要件チェックを通過すると、自動審査コンピューターシステムによる審査にまわされます。自動審査システムでは申請フォームの様々な項目がチェックされます。システムにより、再審査候補と認識されたケースは隔離されて、再審査を要するか否か審査官の最終的な判断を仰ぐことになります。不正を防止する目的で、自動審査システムの審査結果とは別に、全ての申請書の中から無作為抽出でケースを選び、選ばれたケースにも再審査請求が出されることになります。再審査請求の出されなかったケースには労働許可が認可され、認可済み申請書は雇用主に返送されます。こうして、雇用主は認可済み証明書を、永住権申請書(I-140)とともに移民局へ提出することができます。
再審査請求が出された場合、雇用主は、申請書で供述した内容を裏付けるための、規定の証拠書類を提出しなければなりません。提出された再審査用の書類一式は、管轄のETA地域事務所に廻されて、審査官による再審査を受けることになります。
今回提出された新案によれば、審査官は再審査を行った後、「労働許可の発給」、「労働許可申請の却下」もしくは、「当局指導のもとで求人活動を行う指示」を決定する権限を持ちます。再審査用に新たに提出された書類一式に不備が無く、申請書上の陳述や供述と矛盾しないものである場合は、労働許可が認可され、認可済み申請書が雇用主に返送されることになります。一方、再審査用書類が不完全である場合や、申請書上の陳述や供述と矛盾している場合には、労働許可申請は却下され、却下理由を明記した却下通知書が雇用主に送られてくることになります。
地域のETA審査官が「当局指導のもとで求人活動を行う指示」を出す場合もあります。この「当局指導のもとで行う求人活動」は、現在の非RIRケース(一般の労働許可申請)で行われている求人活動システムと似ています。雇用主は、30日間のJob Orderに伴って求人活動を行います。その後、地域のETA審査官は、更に提出された書類を審査し、労働許可申請に対して、認可もしくは却下の判断を下します。申請が却下される場合には、必ず、却下理由を明記した却下通知書が雇用主に送られてくることになっています。雇用主は、決定に不服があれば不服申し立てや司法審査請求などの手続きを進めることができます。
近年労働局は、FAXによるLCA (Labor Condition Application)システムを導入し、「新しいシステムを取り入れることで不必要な審査期間の遅れを解消できること」を自ら証明してきました。21日間の労働許可審査も、不可能ではないでしょう。ただし、州職業安定所と連邦労働局が、迅速なサービスを提供できるような協力体制を取れるかどうかが、今回の新案実現の鍵を握っていると言われています。
今回の新案で、唯一気がかりなのは、雇用主が、自らの権限で賃金調査を行えない、ということです。もし現行平均賃金査定申請書を提出した後、SESAが、雇用主が予定していなかったような高額の賃金を決定してきたらどうすればよいのでしょうか? 新案に中には、雇用主側が自分で行った賃金額調査に基づいて申請することを認める規定は見当たりません。OESと呼ばれるSESAの賃金査定では、平均賃金が年毎に平均で20~30%も増加していますが、現実社会で支払われる賃金はこのような高倍率で増加しているわけではなく、このギャップを考えると、新しく導入されるシステムの賃金査定システムに関してますます不安が募ります。更に、議会は245i条の再復活を検討中ですので、このシステムを導入することで、労働局に過度のプレッシャーを掛けることになりはしないだろうか?という声もささやかれています。
弁護士・デビッド・シンデル
http://www.swlgpc.com/
http://www.swlgpc.com/