ビザアドバイス
2006/03/07
Vol.102 アメリカ政府の移民法に対する今後の行方
実際に私が移民法の世界に飛び込んだのは1994年のことですが、それ以来私は米国移民法の世界がより良くなる様、毎年願っています。しかしながら現実的には事態は悪い方向に進んでいるように思われます。確かにH-1B保持者のポータビリティールール(H-1B保持者が転職する際、申請が移民局により正式に受け取られ審査に入ればその結果が出る前に転職先での就労が可能)や永住権申請を通して米国内での身分変更申請の際のモービリティールール(永住権申請過程の第3段階において身分変更申請から180日以上経過していれば一定条件の下で転職が可能)など、明るい法律も制定されました。しかしながら1997年にはIRAIRAの発布により3年・10年の入国禁止ルール(3/10 year bar)が設けられ、米国内にて180日以上の不法滞在を犯した者に対して3年間の入国拒否を、そして更には365日以上の不法滞在者に対しては10年間の入国拒否が適応される事となりました。また2001年の同時多発テロ以降、Patriot Actが法制化され、米国内の外国人に対する法の適正手続き(Due Process)が完全に撤廃されました。更にビザスタンプも現在では在外の米国大使館・領事館にて各自面接を受けて取得しなければならなくなりました。私が移民法の世界に飛び込んだ当初は日本人であれば例えば東京大使館や大阪・神戸領事館にパスポートとともに申請書を送れば面接を受けることなくビザスタンプを取得することが出来ました。 現在ではビザスタンプの取得のためには各自在外の大使館領事館に出向いての面接が必要ですが本当に一人一人面接を受けることでテロリストによるビザ取得を回避することが出来るでしょうか?我々の移民法のシステムそのものがテロリストをビザ保持者として米国に入国させる結果となってしまったのではないのでしょうか?現在の移民法のシステムは米国を守るためにあまりにも極端なシステムとなっており、結果として米国を他国からの正当な入国希望者までも拒否してしまう良心的ではない国としてしまったと言っても過言ではないでしょう。実際我々はこの問題に直面している多くの有能な科学者や研究者、ビジネスマンが米国ではなく中国、インド、ヨーロッパ各国へ行っているというニュースを聞きます。
ブッシュ大統領がGuest Worker Programを提唱したときは私自身、それは不法滞在者を始め、実際上、多くの人々を救う革新的な法律ができるということで、この大統領案に対して大変期待を持ちました。しかしながら昨年12月20日、下院を216-206にて通過した財政調整法案(上院1932号議案)にはなんら移民法関連の条項は含まれていませんでした。これに関しては引き続き上院による採決が行われることとなりますがその一方で、全く逆の議案が下院を通過しました。Sensenbrenner’s bill(下院4437号議案)と呼ばれるもので、米国に暮らしているすべての人々の自由をも奪いかねない多くの条項を含んでいます。
この下院4437号議案によると米国内の不法滞在者は刑事罰の対象となるでしょう。つまり不法滞在は犯罪と言うことです。また移民問題に対する司法権行使の撤廃や、外国人、永住権保持者、米国市民のDue Processの実質的効力の撤廃、国外退去対象の拡大、教会、雇用者、家族、移民提唱者を含め米国へ密航する外国人に対する定義の拡大、国外退去の対象者となるAggravated Felony(道徳的に認められない不正取引や重犯罪など)の定義の拡大、国外退去や承認しがたいことに対する新しい基準の作成、強制拘留の増進、米国市民権取得のための資格条件の制限など私達にとって実に多くの不利益な内容を含んでいます。
更に最終案を具体的に見てみると原案よりも更に言語道断ともいえる改正案となっています。具体的な改正例は次の通りです。
・ DVプログラムの廃止する
・ 一度却下されたビザ申請に対するAppeal手続きの廃止と同時にパスポートなどの不正使用をAggravated Felonyと見なす(対象者が難民やドメスティックバイオレンスまた不正取引の犠牲者であったとしても同様に見なされる)
・ 州や地方の警察に対して移民法をもとにした法的な行使力の権限を与える
・ 国境のフェンス設置をより多くの場所で行うことを認める
・ 飲酒運転などに関しても国外退去の対象とする
・ 移民局に対する法的な調査権限を強化させ、詐欺行為等を防ぐために移民局内のOffice of Security and Investigationsに対し国土安全保障省がもつデータベースの使用を認める
・ 書類作成上の詐欺、暴力行為、麻薬の密売等に対する罰則を強化する
このHR4437(下院4437号議案)は米国への移民者に限らず米国市民にとってもたいへん失望的で悲惨なものと言えるでしょう。この悲しい事態に対し非移民主義者とそうでない人たちとの溝は日を追うごとにますます深まることでしょう。実際にこの法案が施行されようとするまさに今、日に日にその脅威が私達に近づいてくることを考えるとビザ保持者を抱える雇用主に関連してくる問題に対しても議論を行うべきでしょう。ブッシュ大統領は国境強化及び実際の職場における法律の施行など数十億ドルが投入される法案にサインしました。
弁護士 デビッド・シンデル
http://www.swlgpc.com/
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