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2003/03/03
vol.6  雇用主に求められること

H-1bビザで就労する場合、様々な規定がある事はビザを申請したことのある方ならお分かりだと思います。しかし、これはH-1bビザ申請時だけの規定ではなく、雇用期間を通じて守らなければならない規定であることをお忘れの方々も少なくありません。規定に違反した場合どのような影響があるか、労働局から発表された2つの判例を紹介します。

テネシーにあるメディカルクリニックでは、H-1bで雇用した医師に対して実際に支払った給与が申請書類のLCAに記載された額の1/2から1/3程度であった事が発覚し、10名の外国人医師に合計$ 981,633.04の賃金差額と、$108,800の罰金を支払うよう命じられました。またニュージャージのコンサルティング会社は同じように19名のH-1b就労者に対して、合計$231,279.41の賃金差額と$40,000の罰金を命じられました。いったい何が違法なのか、テネシーのケースを例に検証してみましょう。
1. 給与額
H-1b従業員にはH-1bビザの申請必要書類の一つであるLCA (Labor Condition Application)に記載された賃金を支払う必要があります。ビジネスが軌道に乗るまでは低い賃金しか払えないというのは言い訳になりませんし、試用期間中で就労時間が40時間を下回っていたこと、他でアルバイトをしていたとの雇用側の主張も低い賃金の理由には認められませんでした。多くのH-1bで働く医師のLCAに記載された賃金は$115,000/年でしたが、いくつかは$115,000/年以下でした。判事は$115,000を現実的な賃金と判断し、少なくても$115,000が医師に対して支払われるべきであるとの見解を示しました。単にLCAに記載された賃金を支払えばよいという訳では無く、それ自体が適正な賃金であるかどうかの考慮も必要なのです。
2. パブリックアクセスファイル
雇用主には、H-1b従業員のLCA、職務内容、資格、経験、賃金規定などの記録を保管し、労働局などの政府機関が調査に来た場合にそれらを提示できる状態にしておく義務があります。この雇用主はこのパブリックアクセスファイルに関する義務を知らなかったと主張しましたが、判事はそれを認めませんでした。事実、雇用主はパブリックアクセスファイルの重要性に関して弁護士から手紙を受け取っており、それを読まなかったとは言い訳にならないのです。
3. 待機期間
移民法では雇用主の都合(仕事の減少などの要素に基づく)で、H-1b就労者を無給で待機させることを違法としています。H-1b従業員がテネシーの医師免許や保険の証明を待っていることを理由に賃金の支払いをせず、待機状態にした事は正当な理由とはみなされませんでした。また移民法では米国に滞在している従業員に対してはH-1bビザが認可されてから60日以内に賃金の支払いを開始しなければならないと規定されており、未払い分の賃金についてはH-1bビザが認可されてから60日目から換算されています。
4. 従業員への報復
雇用主は8名の従業員がLCAに記載された額の給与支払いを要求すると、その8人への給与支払いを一切停止しました。また、従業員たちが労働局に苦情を訴えると、10人の従業員のうち、7人を解雇しました。移民法では、従業員がこのような苦情を訴えたり、労働局の調査や訴訟手続きに協力したからといって、雇用主がその労働者に対して報復行為や差別を行うことを禁じています。この雇用主は従業員側から訴えがあった事で給与を支払い過ぎていたことに気がつき、そしてどうしてもこれ以上給与を払えず解雇したと弁護しましたが、判事は雇用者による移民法違反との評決を下しました。もし雇用主がLCAに記載された給与を支払うことができない場合は、その時点で雇用を打ち切るのがベストでしょう。従業員が告訴した後に本人を解雇するのはすでに遅すぎるかも知れません。

現在の経済情勢のもとでは、雇用主が賃金をカットしたり、従業員を一時休職させるケースが多く見受けられます。しかしH-1b就労者に対してこれらを実行すれば、厳しい刑罰の対象となる可能性があることを忘れてはなりません。LCAの中には雇用主がそれを読み、同意した旨のチェックマークがあり、その上で雇用主自身がサインをしているので、申請より低い給与しか支払っていなければ「意図的な違法行為」と解釈されても仕方ない事でしょう。従業員からの訴え以外の理由でも労働局や移民局の調査は行われます。いったん調査となれば、多くの時間と弁護士費用、場合によっては罰金がかかりますので、少なくても次のような書類はそろえておいてリスクを最小限にとどめておくべきです。
LCAを含むH-1b申請書類のコピー、H-1bの認可書とビザスタンプのコピー、H-1b従業員の入国日、滞在許可期間、パブリックアクセスファイル、I-9、Payroll record、給与とその他のベネフィットを規定した書類。これらをそろえることは、雇用主の義務を再確認することにもつながりますので、実行されることをお勧めします。
弁護士・デビッド・シンデル
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